こんにちは。お米を育てる音楽家、ジョーです。
前回に引き続き、ローズ『32のエチュード』を1曲ずつ徹底解説していきたいと思います。
曲を解説するにあたり小節番号を用いていますので、小節番号を記入の上で読んでください。
このエチュードの概要については以下の記事をご覧ください。
構成
この曲は6つの部分に分けて考えたいと思います。
小節番号 | 部分 | 調 |
1-8 | 部分1(提示) | a-moll → C-dur |
9-13 | 部分2 | C-dur → a-moll |
14-17 | 部分3 | A-dur → a-moll |
18-25 | 部分4(再現) | a-moll → C-dur |
26-33 | 部分5 | a-moll |
34-44 | 部分6(コーダ) | a-moll |
それでは部分ごとに詳しく見てみましょう。
部分1(提示)
1小節目から、この曲のテーマ(ミラドー…)が提示されます。
アウフタクトから始まっているのもテーマの重要な要素のひとつです。
3小節目のアウフタクトからはディミヌエンドとともにミレドシラという下行の音型があります。
まるで長いため息のようです。
8小節目で平行調であるC-durで終止します。
部分2
9小節目からの部分2は、部分1で終止したC-durで始まります。
テーマはa-moll・アウフタクト有りでしたが、部分2のメロディーはC-dur・アウフタクト無しです。
ダイナミクスレンジはどちらもpですが、異なる性格を持っていることを理解しましょう。
12小節目の3・4拍目でミのトリル、13小節目のミの音でa-mollの半終止としてこの部分が終わります。
部分3
部分3は14小節目のアウフタクト、すなわち13小節目の3拍目からです。
いきなりド♯です。
a-mollで半終止しましたが、4分休符の後、A-durを最も印象づけるド♯で始まるということは、ガラリと雰囲気を変える必要があります。
たしかにダイナミクスレンジもmfになっていますね。
16小節目でfまでクレッシェンドしますが、すぐにpになり、ppのミの音、すなわちa-mollの半終止でこの部分を終わります。
ここまでの部分1~3を大きく前半部分と捉えることもできるでしょう。
部分4(再現)
18小節目のアウフタクトから、テーマが再現されます。
25小節目までの部分4と部分1を比べてみると、全く同じ箇所がいくつかあります。
1小節目と18小節目、4小節目と21小節目、8小節目と25小節目です。
一方、異なる部分はというと、テーマの変奏と考えることができるでしょう。
20小節目のアウフタクトからは、32分音符を含む細かいメロディーで一見すると全く新しい要素のようにも思えますが、よく見てみると拍の頭の音はミレドシとなっていて、提示部分と同じです。
23小節目・24小節目も細かいメロディーになっていますが、3連符のところは細かくなっていても3連符になっていて、提示部分の要素をしっかりと残しています。
ですからこの部分は変奏によって8小節間が全て再現されていると考えられます。
部分5
26小節目からはa-mollのメロディーです。
部分2は部分1の終止のC-durを引き継いでいましたが、部分5は部分4のC-durの終止を引き継いでいません。
C-durへと進むことなく、再びa-mollへと戻ります。
部分5はfが2回も出てとても動きがありますが、調を見てみるとa-mollの中でのみ動いています。
大きく捉える場合は、部分4と部分5を後半部分と考えます。
前半部分と後半部分を比べると、前半部分は調の変化がたくさんありましたが、後半部分はa-mollが中心です。
部分6(コーダ)
32小節目の2拍目から部分6ですが、34小節目の16分音符と連続していることから、これは34小節目の長いアウフタクトと考えるのが妥当でしょう。
36小節目の4拍目でrit.し、楽曲が終わるのかと思いきや、37小節目で突然fになります。
これは予想を裏切りるため、かなり衝撃的です。
同じa-mollではありますが、キャラクターを一瞬で変える必要があります。
その後mf、p、ppとだんだん小さくなっていき、楽曲が閉じます。
同じメロディーは対比させよう
注目して欲しいのは、16小節目と40小節目・41小節目です。
順番に見ていきましょう。
16小節目
16小節目の2拍目からラソラファミ、4拍目からもラソラファミがあります。
文字で書くと全く同じですが、楽譜でみるといろいろと違います。
まず音ですが、前者はラソ♯ラファ♯ミですが、後者はラソ♯ラファ♮です。
つまり前者はA-dur、後者はa-mollです。
音域は後者が1オクターブ下がっています。
ダイナミクスレンジは前者がfで後者がpです。
速度は後者にrit.の指示があります。
まとめると以下のとおりです。
楽譜を見ても違うのはすぐに分かりますが、このように表に書き出すとあらゆる項目がしっかりと対比されていることが分かります。
この徹底された対比に気づくことができれば、全く異なるキャラクターで表現することができ、聴衆を引きつけることができるでしょう。
40小節目・41小節目
どちらもシミラですが、対比されています。
表で見てみましょう。
先程の例と比べると、調と速度は同じですので、極端に対比をつけているとは言えません。
ただし、やはり音域とダイナミクスレンジは異なりますので、その部分の吹き分けは大事です。
対比させる箇所では音色も対比させることができればより効果的です。
例えば、大きい音の方は温かい音色で、小さい音の方は悲しい音色で、など。
音色については作曲者の指示がありませんので、奏者のセンスに一任されます。
同じメロディーは対比させよう
今回の2つの例はどちらも作曲者によって明確に対比させるように指示がありました。
それによって同じ音でも、全く異なる表情になり、効果的な繰り返しになります。
場合によっては作曲者の指示がなくても対比させるとよい場合があります。
特に全く同じメロディーが出てきたときは2回目を小さくしてあげるなど、変化をつけてあげるといいかもしれません。
今回は対比について詳しく説明しました。
同じメロディーを全く同じに吹くのはつまらないですもんね。
そういえば18小節目からの再現も冒頭と全く同じメロディーではなく、変奏が加わっていましたね。
どんな時であっても、無表情に全く同じに繰り返すのはやめましょう。
それではまた次回!