柿沼敏江『〈無調〉の誕生』を読んでみた

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こんにちは。お米を育てる音楽家、山代丞です。

今日は柿沼敏江さんの『〈無調〉の誕生』という本をご紹介します。

本書の特徴

帯の下部にはこのように書かれています。

調性が崩壊せず、〈無調〉も実在しないとしたら…

20世紀以降の音楽にほんとうは何が起こったのか?

普段、私たちは調性がない音楽のことを無調と言い、当たり前のように無調という存在を扱ってきました。

もちろん、音楽史でもそのように教えられますし、音楽史の本を読んでもそのように書かれています。

そこから考えると、無調が実在しない、というのはかなり衝撃的な言葉です。

本書は、20世紀以降の音楽にほんとうは何が起こったのかを、「無調」とされる現象とそれにまつわる音楽上の事象や言説から再検討しています。

この現代音楽の時代をもう一度見直し、さらに今後の展望を得ることを狙いとしています。

以下の目次も参考にしてみてください。

目次

プロローグ――ドミナントなき時代

第一章 「無調」とは何だったのか
無調という語/無調とは?

第二章 シェーンベルクを読み直す
『シェーンベルクの誤り』/シェーンベルクの信念/単一調性(モノトナリティ)/調性とジェンダー/ゲーテの原植物

第三章 無調と調性の間
浮かび上がる調性/一二音音楽における調性

第四章 無調と調性の修辞学
非芸術~狂気/調性の死/不気味/自由・解放/無調と革命/誠実さと倫理

第五章 クルシェネクの「転向」(無調の政治学1)
政治的芸術/《カール五世》への道/アドルノとの往復書簡/《カール五世》と一二音技法/独自の一二音技法/一二音技法と調性/ローテーションと旋法/避難所としての一二音技法

第六章 もうひとつのダルムシュタット(無調の政治学2)
前衛音楽批判/結節点としてのゼロ時/ヘルマン・ハイスと一二音技法/ヘルベルト・アイメルトと無調音楽/ゴリシェフ、フーイファールツとセリアリズム/創られたウェーベルン像

インテルメッツォ――ニコラス・ナボコフと「無調」

第七章 隠れた水脈――八音音階という魔術
半音階と全音階の狭間/全音音階/オクタトニック(八音音階)/媒介する音階/オクタトニックと半音階/移高の限られた旋法/オクタトニックと日本の現代音楽/オクタトニックとスペクトル、ポスト・スペクトル楽派/オクタトニックと実験音楽、ジャズ

第八章 調性の回路
調性批判――シベリウス問題/人々のための現代音楽――ハンス・アイスラー/軽いクラシック(あるいはダダとしての調性)――クルト・シュヴェルツィク/「ポスト」の美学(あるいは追伸としての音楽)――ヴァレティン・シルヴェストロフ

第九章 音律と倍音がつくる世界
一二平均律からの逸脱――三分音と四分音/純正律にもとづく調性――田中正平、ハリー・パーチ/倍音への眼差し――シュトックハウゼンとリゲティ/スペクトル音楽と「無調」/倍音の広がり――テニー、ラドゥレスクほか

第一〇章 時間の軌道
時間軸をつくるもの/物語の痕跡――シェーンベルク、ペンデレツキ/エピソード的な時間――サティ、ストラヴィンスキー、フェルドマン/時間の幾何学――セリアリズムとスペクトル音楽/循環する時間――パッサカリアと平方根リズム構造

エピローグ――中心のない現代

あとがき

参考文献

「無調」について、とことん考察

まずはそもそも無調ってなんだろう、という話から始まります(第一章)。

無調と言えば、シェーンベルクが始めて無調の作品を作曲した、というのが通説ですが、当の本人は無調という言葉を使わなかったのです。

そこで、そもそもシェーンベルクについて正しい認識をしているのかを考えます(第二章)。

その後は、いわゆる無調とされている作品からも調性が感じられること(第三章)、 無調や調性がどのように語られてきたのか(第四章)、政治との関わりについてなど(第五章、第六章)、多方面から考察がされています。

後半は半音階でも全音階でもない音階や(第七章)、調性音楽(第八章)、平均律以外の可能性(第九章)へと話が広がり、現代音楽が複雑に発展していることが分かります。

最後は時間に焦点を当て、楽曲構成や形式と現代音楽の関係について述べられています(第一〇章)。

このように「無調」を軸にしながら、多方面から現代音楽を再検討していることが分かります。


本書では、シェーンベルク自身が無調や楽曲についてどのように考えているかの引用が多くありました。

また、無調が当時の批評家たちにどう受け止められていたのかという引用も多くありました。

今の時代を生きていると、今現在、無調がどのように捉えられているかという考え方が基本になってしまいます。

しかし、本書を通して本人の考え方・当時の受け止め方を理解することができたのは、非常に参考になりました。

また、現代を代表する作曲家がたくさん登場しますし、楽曲もたくさん扱われています。

知らない曲は早速YouTubeで聴いてみましたが、いつでも新しい曲との出会いってわくわくしますよね。

後半においては知らなかった作曲家が何人もいたので、新しく知ることができたのも良かったです。

本書は音楽学者が書いた専門書ですから、参考文献もとても充実しています。

気になったことについては、さらに追求してどんどん調べることができます。

こんな人に読んで欲しい

ちょっと小難しいことが好きな、物好きにおすすめな一冊です。

「無調って言っても、実はこうでこうで~」とうんちくを語りたい音楽愛好家にもおすすめです。

20世紀の音楽はいろんなことが起こっていて非常に複雑ですので、音楽史で勉強しても「20世紀はいろんなことが起こった」という紹介で終わることが多いです。

そこをさらにつっこんで考えることができるというのは、とてもいいと思います。

音楽史を再検討する内容ですので、まずは音楽史を身につけていることが前提です。

本書を理解するには、音大生やそれ相当の知識があることが必要だと思います。

まとめ

正直、これを読んだからといってすぐに演奏に何かが反映されるわけではありません。

しかし、クラリネットを吹いていると現代の作品を演奏する機会が多いのも事実です。

現代音楽について改めて考えてみるにはいい本ではないでしょうか。

ぼくも改めて無調や現代音楽について考えることができました。

みなさんもぜひ読んでみてくださいね。

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それではまた次回(^^)

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